A03
イネ科植物の色素体制御
久野 裕(代表)
植物の組織培養は、植物の組織や器官を栄養培地上で無菌的に栽培する技術で、クローン苗/ウイルスフリー苗の生産や遺伝子組換え作物/ゲノム編集作物の開発などに利用されています。この技術を用いると、植物ホルモン(オーキシンやサイトカイニン)濃度などの栄養培地組成を調整することにより、脱分化(カルス化)や再分化(シュート再生)など植物組織の分化状態 をコントロールできます(図1)。
図1
イネ科植物のオオムギは、オーキシンを添加した栄養培地上で暗条件にて培養すると未分化な細胞(カルス)が形成・増殖します。一方、サイトカイニンを添加した栄養培地上でカルスを明条件で培養すると再分化(シュート再生)します。
この写真は、オオムギのカルスから緑色の葉が再分化している様子です。カルスから葉が再生する際、色素体が役割を変えていると考えられます。
オオムギの場合は、種子の胚芽(発芽する時に芽や根が発生する部分)にあたる未熟胚からカルスを誘導することができます。未熟胚では、色素体は主に原色素体(プロプラスチド)の状態で存在していると考えられます。色素体は、カルスでは主にデンプンを蓄積するアミロプラストとして存在しますが、緑色シュートでは主に葉緑体が存在します(分裂組織ではプロプラスチドが存在)。では、カルス化やシュート再分化する時、色素体はどのように役割や形態を変えていくのでしょうか?
図2
私たちの研究グループでは、色素体を可視化した形質転換オオムギを作出しています(Matsushima and Hisano 2019)。蛍光ラベルによって、アミロプラストや他のプラスチドの形がハッキリと判ります。
(写真:岡山大学資源植物科学研究所 松島良 准教授 提供)
本研究では、オオムギの組織培養技術や形質転換技術(図2)を活用し、カルス化や再分化の際に色素体がどのように分化制御されているかを明らかにします(図3)。初めに、各色素体の分化状態に特異的な遺伝子発現とタンパク質発現を明らかにし、色素体の分化状態を規定する因子の特定を目指します。さらに、それらの因子を色素体の分化マーカーとして分化過程・状態を捉え、組織培養時の色素体分化メカニズムの解明と高度培養技術などへの応用を目指します
図2
葉では主に葉緑体、カルスでは主にアミロプラストが存在します。カルス形成時やシュート再生時には、色素体がどのように分化するのかはまだ明らかになっていません。本研究では、この色素体相転換に係る分子因子の特定を目指します。
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