研究領域の概要

色素体と植物細胞のつながりを
理解する

領域概要

葉緑体の獲得により光合成を行う能力を得た植物の祖先細胞は、葉緑体を様々な役割をもつ色素体(プラスチド)へと分化させることで、現在の植物にみられる複雑で多様な機能を獲得することに成功しました。色素体は植物の生命活動のあらゆる場面に関わっており、色素体の分化可塑性が植物独自の生活史を可能にしているのは間違いありませんが、色素体の多様な形態・機能と分化転換は、どのような分子制御によって成り立ち、植物細胞の機能と分化にどのように影響しているのかまだよく分かっていません。本研究領域では、色素体を中心にした視点から植物の生命現象を突き詰めることで、他の生物と共通した生命の基盤の上で、植物はどのように独自の機能を発揮し、独自の生命システムを作り上げているのかを明らかにすることを目的とします。

研究体勢と内容

A01

プラスチド相転換を制御する因子の機能解析

Functional analysis of the factors regulating plastid reprogramming.
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植物細胞と色素体には高い分化協調性が見られ、葉肉細胞が幹細胞に脱分化するときには細胞内の葉緑体も原色素体に脱分化し、幹細胞が根や葉茎の細胞に再分化するときには、原色素体もそれぞれの細胞に特異的な形態に再分化します。このように植物細胞と色素体の分化状態は強くリンクしていますが、両者の分化可塑性を結びつける分子メカニズムの全容は未だに解明されていません。色素体で機能するタンパク質には核ゲノムにコードされているものと色素体ゲノムにコードされているものがあり、細胞と色素体の分化相転換が起こる際にはそれぞれのゲノムが連動したかたちで大きな変化を示すと考えられます。そこで、本研究では、核の分化調節因子のはたらきにより細胞の分化状態を変化させた際に、核ゲノムと色素体ゲノムのそれぞれでどのような変化が起き、それらがどのように連動性するのかを明らかにすることで、細胞と色素体の協調的な相転換を引き起こす分子機構の解明を目指します。

A02

脂質駆動によるチラコイド膜形成過程と
葉緑体分化機構の解明

Elucidation of lipid-mediated thylakoid biogenesis and chloroplast differentiation.
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植物には、葉緑体を形成する細胞としない細胞がありますが、細胞ごとに葉緑体を形成するかどうかはどのようにきまるのでしょうか。葉緑体か否かは、光合成反応の場であるチラコイド膜があるかないか、と言い換えることができます。つまり、チラコイド膜の発達の有無が、葉緑体になるか否かの分岐点となるわけです。しかし、光合成電子伝達やATP合成といった必須の役割を担うにもかかわらず、葉緑体分化時にチラコイド膜が形成されていく過程は未だにほとんど分かっていません。チラコイド膜は脂質二重層を足場にタンパク質などが集まり複合体を作ることで出来上がります。そこで本研究では、チラコイド膜の土台をつくる膜脂質の役割に着目し、チラコイド膜の形成、特にその初期過程ががどのように起こり、それが植物細胞による葉緑体分化決定メカニズムとどのように関わるのかを明らかにしていきます。

A03

イネ科植物の組織分化転換における
色素体の制御機構の解明

Investigation of the regulatory mechanism of plastid in the tissue differentiation of grass plants.
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未分化な細胞塊であるカルスから植物体が再生する過程では、デンプン合成を担うアミロプラストから光合成を担う葉緑体への色素体相転換が細胞内で起こります。この色素体相転換は直接成立するのか、すべての色素体の前駆体である原色素体(プロプラスチド)へ一旦脱分化した後に細分化するのか、それとも1つの細胞に原色素体と分化した色素体が混在するのか、まったく分かっていません。本研究では、オオムギを材料に開発した組織培養技術を活用し、各色素体の分化状態に特異的な遺伝子発現とタンパク質発現のプロファイリングを行い、色素体の分化状態を規定する因子の特定を目指します。さらに、それらの因子を色素体の分化マーカーとして可視化することで色素体の分化過程をとらえることを可能にし、組織培養時の色素体分化メカニズムの解明と植物器官の人工培養技術(オルガノイド)への応用を目指します。

A04

色素体の崩壊とゾンビ化のメカニズム解明

Elucidating the mechanisms of chloroplast collapse and zombification.
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植物細胞における物質生産の中心を担う色素体は、病原菌による略奪のターゲットである一方、高い反応性を武器に病原菌に抵抗する要でもあり、病原菌と植物との攻防の主戦場となります。うどんこ病菌の侵入を許した葉の表皮細胞では貯蔵デンプンを目当てに色素体は破壊されますが、侵入部位周辺の葉肉細胞においては葉緑体は強制的に維持され、いわばゾンビ化した状態で光合成産物の供給を強いられます。病原菌が、「色素体の崩壊」と「葉緑体のゾンビ化」という、相反することを隣接する表皮細胞と葉肉細胞間で行わせる仕組みや分子メカニズムは、まだまったく分かっていません。本研究では、細胞内で起きている病原菌と植物細胞との攻防の過程を詳細に調べることで、病原菌による色素体の崩壊・ゾンビ化の多細胞間制御メカニズムを明らかにし、その知見を植物の病害抵抗性の向上につなげることを目指します。

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